写真:故・原博氏(作曲部屋にて)
原博氏作曲の「挽歌」(ばんか)は、1968年に作曲された合奏曲「ギターアンサンブルのための組曲」の第3楽章です。
「ギターアンサンブルのための組曲」は、私が所属していた「成蹊大学ギターソサエティー」(通称・ギタソ)による委嘱作品第1作目として作られました。ギタソは、1964年(昭和39年)発足なので、その4年後です。当時のメンバーが、作曲家の三宅榛名氏を通じて原博先生に依頼し、作っていただいた、ギター3パート(3重奏)による合奏曲です。
曲全体は、
第1楽章「ファンタジア」
第2楽章「パッサカリア」
第3楽章「挽歌」
第4楽章「フーガ」 (1975年に追加)
という4楽章構成になっており、「挽歌」のみならず、すべてがすばらしい曲です。
●挽き歌
「挽歌」は、「挽(ひ)き歌」とも言います。
「棺(ひつぎ)を挽(ひ)きながら歌う歌なんだ」と、原先生が生前にお話しされていたのを記憶しています。
よく外国映画で、葬式で行進しながら、お墓まで棺を運ぶシーンが出てきます。ショパンの「ピアノソナタ第2番 変ロ短調 作品35」の第3楽章は、有名な葬送行進曲ですね。弔いと行進は密接な関係かもしれません。
ただ、「挽歌」は、行進というよりは、足取りが重い歩みのような感じです。
「挽歌」の中間部に、「Grave(グラーヴェ)」という発想記号が出てきます。これは、イタリア語で「重々しく、荘重に」という意味ですが、この部分を弾くと、まさに「棺を挽いて重い足取りで歩いている様子」が目に浮かんできます。「Grave」には「お墓」という意味もあります。
この部分は勢いでさらっと弾いてしまいがちですが、「Grave」の出だしは少しテンポを落としたほうがよいでしょう。
●ソロ譜への再編曲
「挽歌」は、ギタルラ社からソロ譜が出版されていますが、もともと3重奏であった曲をソロにしたため、弾きやすいように、かなりの音が省かれてしまっています。どうもピンときません。音が非常に薄い感じで、原曲の和声の美しさが生かされていない気がします。
そこで私は、CD「原博ギター作品集」でソロを収録する際に、ギター3重奏の原譜に忠実に編曲してみました(ただし、中間部のカデンツァは、原譜にはありませんので、“忠実”ではありません)。
この編曲は、原先生にも気に入っていただき、CD「原博ギター作品集」の曲目解説で、以下のような身に余るお言葉をいただいています。
「『挽歌』はカデンツァを含めて編曲され、まるでバッハ〜ブゾーニ編の『シャコンヌ』のようにまとめていただいたのである」
さらにそれだけではなく、原先生が出版元に、「現在出ているソロ譜を取り下げて、新しい編曲版を出版したい」とかけあってくださったのです。出版されていた楽譜の在庫がまだあったため、要望はかなわず大変残念でしたが・・・。
この曲が、もっと多くのギタリストの方々に知られ、弾き継がれていってほしい・・・そう願っています。
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