
●想い出の曲
だれにでも想い出の曲があると思います。
筆者の想い出の曲は、『森に夢みる(un sueno en la fioresta)』です。
パラグアイの作曲家、アウグスティン・バリオス=マンゴレ(1885~1944年)によるギター曲です。
バリオスは、映画「伝説のギタリスト『マンゴレ』愛と芸術の果てに」で、その偉大な生涯が描かれています。
『大聖堂』など数多くのギターの名曲を作曲しており、ギターの名手でもありました。
筆者がこの曲に出合ったのは、高校3年のときでした。
悩み多き青春時代を過ごしていた時期です。
この曲を初めてCDで聴いたとき、「なんて美しい曲なんだ」と衝撃を受けたのです。
まるで本当に森の中にいて、いろいろな光景を目にしたような気がしました。
この曲に救われた、と言っても過言ではありません。
●希望の光
この曲は、光と影の部分が交互に展開します。
前半では、ゆっくりとしたベース音のアルペジオに乗って、美しい夢見心地のようなトレモロのメロディーがはじまります。
花が咲き乱れ、蝶が舞うような景色が目の前に広がるようです。
しかし、そんな甘美な時間も長くは続かず、後半は一転、森の中は暗闇に包まれます。
そして、その暗闇の中から、悲しみに満ちた短調のメロディーがトレモロで奏でられます。
そのトレモロは、オクターブの和音の強い音型を伴って、20フレット(筆者の場合は19フレット)までのぼりつめます。ここは、演奏の難所です。
トレモロの下降とともに、やがて、ほの暗い森の中に、光が差しはじめます。
曲は最高潮へと達し、その余韻を反芻(すう)するかのように、再びトレモロは19フレットまで上昇し、森の奥へと消え入るように曲は終了します。
自分の勝手な印象を書いてしまいましたが、あなたはこの曲にどんな印象を受けるでしょうか?
ぜひ聴いてみてください。

森に差し込む光
●トレモロ奏法
この曲のほとんどの部分は、「トレモロ(tremolo)」という奏法で演奏されます。
「トレモロ」は、 イタリア語で、tremare(ふるえる)が語源の音楽用語。
同じ音を、超高速で連続して弾くため、音がつながって、小刻みに震えているように聞こえるのです。
ヴァイオリンやチェロのように音を長く伸ばすことができず、音の減衰が速いギターにとって、唯一、音を継続して出すことができる貴重な奏法です。
具体的には、右手の
a(薬指) → m(中指) → i(人さし指)
の順番で高速回転させ、1つの弦(同じ音)を連続して弾いて演奏します。「トレモロ」奏法で弾かれる有名な曲に、「アルハンブラの想い出」があります。
先日、東京・要町にある現代ギター社のホールで、何十年ぶりかでこの曲を弾く機会がありました。
ミスは大目に見ていただき(汗)、曲の雰囲気だけでもお聴きいただければと思います。