写真:小島浩宜先生のリサイタルより
私は大学1年の時、ギタークラブの先輩の紹介で、小島浩宜(ひろたか)先生のギター教室に通うことになりました。それまではずっと独学だったため、人にギターを教わるのは生まれて初めてでした。非常に緊張したことを覚えています。
小島先生は、第1回新人賞(現在のクラシカルギターコンクール)を受賞された、岐阜出身のギタリストです。
教室の場所は、日本を代表するギター製作家・河野賢氏のご自宅2階。そこに小島先生と、パリの国際ギターコンクールで優勝された渡辺範彦氏が間借りして住まわれていました。
池袋の立教通りを山手通り方面に10分くらい歩いた場所です。
小島先生はレッスンの際、やおら立ち上がり、歌い出します。「そこは、ギターでこう歌うんだ」と・・・。
いきなり「ギターで歌え」と言われても、「具体的に何をどうしたらよいかわからない」という方がほとんどでしょう。
小島先生は、楽譜に基づきながら、具体的にどう歌えばよいか、ていねいに教えてくれます。ただ指に任せて弾いていた自分にとっては、稲妻に打たれたようなショックを受け、そこから演奏がガラリと変わりました。自分の演奏、人生を変えてくれた恩師だと、感謝しています。
テクニックや理論に終始しがちな多くのレッスンの中において、小島先生のレッスンは異色で、
「ギターで歌うように弾くとはどうすればよいのか?」
「具体的にどう演奏につなげるのか」
「どのような音で表現するのか」
・・・といった点を指導できる数少ないギタリストだと思います。
このレッスンのおかげで、私は、
「歌うことの大切さ」
「感情を音で表現することのすばらしさ」
「音楽の奥の深さ」
を学んだと思います。
小島先生の演奏は、歌心が素晴らしいのです。とくに、グラナドスの「ゴヤの美女」、アルベニスの「グラナダ」は絶品です。テクニックはすごいが聴いたあとに何も残らない演奏をするギタリストがいる中、人に「感動」を与えられる数少ないギタリストだと思います。